エジプトの国民皆保険制度では、架空請求やデータ漏洩によって毎年数十億ドルもの損失が発生しており、2030年までにその額は112億ドルに達する可能性がある。だからこそ、公立病院へのブロックチェーン導入は単なる技術的な問題にとどまらない。それは、本来であれば無駄に失われてしまう公的資金を守るための重要な課題なのである。
学術誌『Scientific Reports』に掲載された研究では、国民皆保険制度(Universal Health Insurance System)の下で運営されている53の公立病院から228名の経営幹部やIT専門家を対象に調査を行った。その結果、ブロックチェーン導入の意向は、技術の相対的な優位性、病院の財務能力、そして技術に対する信頼度に最も強く左右されることが明らかになった。一方で、複雑さやリスクは導入を妨げる要因となっている。特筆すべきは、信頼が仲介役を果たしている点である。政府の支援や安全性の保証は意思決定に直接影響するわけではないが、導入を後押しする既存の確信を強める役割を担っている。
ここで言う財務的な準備とは、単なるアンケートの項目ではない。予算の限られた病院はパイロットプロジェクトすら実施できない状況にあるが、皮肉にもそうした病院こそが保険金詐欺の最大の被害者となっている。改ざん不可能な記録とスマートコントラクトを備えたブロックチェーンは、請求の検証を自動化し、事務コストを削減し、患者自身が自分のデータを管理できるようにする。これらすべてが、システムからの資金流出を直接的に抑えることにつながるのだ。
制度的な圧力も役割を果たしている。省庁の通達や業界標準は外部からの刺激となるが、内部の財政的な余裕と技術への信頼がなければ、病院が動き出すことはない。デジタルインフラがまだ未整備な発展途上国において、こうした要因はイノベーションが実験段階で停滞しないための決定的な鍵となる。
一般的なクリニックを想像してみてほしい。そこでは架空の請求書一枚一枚が、本来なら本物の薬や医師の給与に充てられるはずの予算を削り取っている。ブロックチェーンはここでは「デジタルの金庫」として機能する。患者のデータは守られ、保険金は検証済みの連鎖を通じてのみ支払われる。すでに財務的な柔軟性を持ち、システムの信頼性を確信している病院が、真っ先にコスト削減の恩恵を受けることになるだろう。
結局のところ、成功はコードの質だけでなく、国家と病院が信頼とリソースにどれだけ投資できるかにかかっている。ブロックチェーンが実効性のある節約ツールになるか、それとも単なる美しい理論に終わるかは、まさにそこにかかっているのである。




