2026年7月9日(木)、SKハイニックスは1億7790万株のアメリカ預託証券(ADR)を1株149ドルで公開し、米市場における外国企業としては過去最大規模となる265億ドルを調達しました。翌日にはADRの価格が168ドルから170ドルへと跳ね上がり、最大17%もの上昇を記録しました。
この決断を主導したのは、ハイニックスの親会社であるSKグループのチェ・テウォン会長です。同会長は今回の上場を「実現した夢」であると公言し、顧客からより大規模な事業展開を求める声が以前からあったことを強調しました。チェ会長にとって、これは単なる資金調達ではなく、長年築き上げてきた戦略の当然の帰結です。事実、同社はエヌビディア向けの広帯域メモリー(HBM)における主要サプライヤーとなり、ソウル市場での時価総額はすでに1兆ドルを突破しています。
チェ・テウォン氏は1998年からSKグループの舵取りを担ってきました。その過程で、同氏は化学・エネルギー中心だったコンツェルンを、世界有数の半導体メーカーへと変貌させたのです。一族による支配がより強固なサムスンとは対照的に、チェ会長はAI向けメモリー分野におけるハイニックスの技術的優位性に賭けました。今回の記録的な上場は決して突発的な動きではなく、競合のマイクロンやサムスンが増産を急ぐなか、韓国特有の制約を受けずに直接株を購入したいという米国投資家らの要望に応えた結果といえます。
背景にある制度的な制約は明白です。韓国市場は規模が小さくボラティリティが高い一方で、韓国政府は国内工場への巨額投資(サムスンと合わせて8800億ドル以上)を企業に求めています。米国市場への上場は、世界で最も厚みのある資本市場へのアクセスを可能にし、競争力のある報酬で優秀な人材を確保できるほか、国内融資への依存を軽減させます。その一方で、調達した資金は韓国国内の新工場建設に充てると、チェ会長は明言しています。
先見の明を持つグローバリストという表向きのイメージとは裏腹に、実像としてのチェ会長は常に慎重に立ち回り、HBMの需要が最高潮に達する瞬間を待ち構えていました。今回の上場において、募集枠の7倍を超える申し込みが殺到し、現地の株価を上回る価格が設定されたことは、会長が好機を正確に捉えたことを示しています。これは新機軸への転換ではなく、AIメモリー市場での覇権を狙うという長年の戦略の正しさを改めて証明するものです。
TSMCの創設者モリス・チャン氏が、世界的なチップ需要の高まりによって自社が不可欠な存在になるのを何十年も待ったように、チェ・テウォン会長もまた、AIブームを利用してハイニックスの地位を頂点へと押し上げました。唯一の違いは、今や資本と評価がアジアだけでなく、ウォール街からも直接もたらされているという事実です。
この決断は、AI時代のアジアの財閥リーダーがいかに国家の利益とグローバルな資本市場の間でバランスを保つべきか、そして好機を待つ洞察力がいかに一地方の強者を世界的なプレーヤーへと変貌させるかを物語っています。


