絶滅の危機に瀕する植物種を保護するため、種子バンクにおける遺伝的多様性の現状を評価する新たなオープンソースの枠組みが開発されました。これは、生態系の保全と、私たちの食料システムの持続可能性を確保する上で、非常に重要な取り組みです。
気候変動と生息地の喪失が加速する中、多くの植物種が絶滅の危機に瀕しています。種子バンクや植物園は、植物の遺伝的多様性を保存する上で重要な役割を果たしています。しかし、これらの域外保全活動において、野生植物種の20%未満しか適切に代表されていません。
モロッコのムハンマド6世ポリテクニック大学(UM6P)の研究者であるマルワ・エル・グラウイ博士は、この問題に対処するための枠組みを開発しました。彼女の手法は、公開されているデータ、地理空間モデリング、そして使いやすいソフトウェアを利用して、種子バンクにおける遺伝的多様性の現状を評価します。これにより、研究者は、緊急の保全を必要とする種を優先的に特定することができます。
エル・グラウイ博士の研究は、Vigna属に焦点を当てていますが、このアプローチは、あらゆる植物群に適用可能です。この枠組みは、直接的なゲノムデータが利用できない場合、サンプル間の地理的および環境的な距離を遺伝的差異の指標として使用します。これは、距離による隔離の理論に基づいており、遠く離れた集団ほど遺伝的に異なる傾向があるというものです。
種の分布範囲を正確に定義するために、エル・グラウイ博士と共同研究者は「調整された範囲」という手法を開発しました。この手法は、記録された出現ゾーンを捉えるためのインクルージョンバッファと、種分布モデル(SDM)によって予測されたありえない領域を削除するためのエクスクルージョンバッファを組み合わせたものです。また、チームは、保全評価に大きな影響を与える域外コレクション記録の不正確さにも対処しました。
この一連の作業は、オープンソースのRライブラリとしてパッケージ化されており、世界中の研究者が利用できます。ユーザーは、出現座標と気候変数を入力することで、各種の保全スコアを生成できます。このオープンソースのアプローチは、デジタルツールとアフリカのデータを利用して世界的な課題に取り組むというUM6Pのビジョンと合致しています。
この革新的な枠組みは、種子バンクにおける遺伝的多様性の現状を改善するための実用的なツールを提供します。これは、植物保全という喫緊の課題に対する、スケーラブルでアクセスしやすい解決策を提供し、生態系と人間社会の両方に貢献します。遺伝的多様性の現状を改善することにより、私たちは植物種をより良く保護し、将来の世代のために私たちの食料システムの持続可能性を確保することができます。日本においても、生物多様性の保全は、持続可能な社会の実現に向けた重要な課題であり、本研究の成果は、今後の保全活動に大いに貢献するものと期待されます。